ここで更にワンポイントアドバイスです。それは
“低能率スピーカーシステムには大出力アンプを使うべし”
なんです。理由は何も出力ではありません。理由は音質です。大出力アンプの場合はパワーアンプのパワー段のパワートランジスターを何個も並列に接続して出力を稼ぎます。しかし、その分歪が増えます。そこでフィードバックを思い切り深く掛けます。するとその分ダンピングファクターの数値が上がります。その結果思い切り重いウーハーを強力にドライブします。するとある程度締まった低音となります。すると聞く側ではリアルな音として聞く事になります。しかし、マルチチャンネルシステムの場合はそれが弊害となります。
マルチチャンネルシステムの場合は多くが能率の良いユニットを使うのが普通です。するとそれらをダンピングファクターの強大なパワーアンプでドライブしますと締まり過ぎて量感を感じさせない低音となってしまうのです。すると多くのオーディオマニアはパワー不足と判断します。その結果更に大出力パワーアンプを使います。当然更に低音の量感は無くなってしまいます。そこで “それでは・・・” で更にエスカレートしてしまいます。その結果
“えーい オーディオ ヤメ!”
ってな事になるのです。駄目なのは実際には貴方なのです。能率の良いウーハーで低音の量感を増すにはダンピングファクターがせいぜい一桁のパワーアンプなのです。それは真空管式であれば2A3のプッシュプルアンプなどは最適です。2A3PPのAB級アンプの場合はほとんど場合ダンピングファクターは5~7程度になります。この数値はウーハーにとっては非常に心地よい条件なのです。
多チャンネルマルチチャンネルシステムの場合に最も出力が要求される帯域はミッドバス帯域です。ミッドバス帯域は多くの楽器は勿論人の声も当然この帯域に入ります。現実的な周波数帯域としては100から数百Hzです。この帯域にはエネルギー集中があります。とは申せ数百ワットなんて強烈なパワーは必要ありません。何せスピーカーはモーターではありません。負荷は空気なのですから。
これらのパワーアンプのパワー素子はナショナルセミコンダクターのLM1876です。このパワーICは素晴らしい能力と素晴らしい音質を併せ持った素晴らしいパワー素子だと確信しております。3種の違いは単に電源電圧の違いのみです。勿論小出力の物はパワートランスの容量も小さくなっております。
私がかつて作って来たパワーアンプで最も良い音だと思った物は2A3のロフチンホワイトアンプでした。更に優秀な音質の物は45のシングルアンプでした。これらは非常に透き通った音なのです。清々しいと云う表現が正しいのかも知れません。その点300Bは電気的には確かに優秀です。しかし、音質的に何故か重々しいのです。楽器の清々しい音の表現が不得手なのです。
LM1876はさすがに2A3ロフチンホワイトアンプの音にはなりません。しかし、2A3PPの音質に酷似しているのです。2A3PPの音は多くの物がソフトタッチの音に仕上がっております。そのソフチタッチの音に酷似している音がLM1876なのです。
私は決してオールマイティーの音とは申しません。しかし、私にとって “許せる音” なのです。私が優秀だと思える音は耳元をすり抜けるような音なのですが、本機の音はそこまでは行きません。しかし、耳元に優しく語り掛けてくれる音なのです。いつまでも聞き疲れを感じさせない音とお考え頂ければ幸いです。
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多くのオーディオマニアは大音量では聞いていないと思います。特に名機の名を残した有名スピーカーシステムの場合は基本的に能率が良い物がほとんどです。すると三極管による小出力パワーアンプでほとんどの場合に必要にして充分な能力を発揮します。しかし、オーディオマニアは何故かハイパワーアンプを選びます。原因は恐らく “大きい事は良い事だ!” 或いは “大は小を兼ねる” でしょうね。しかし、果たしてそれで良いのか?
私は良いとは思いません。何故なら無駄だからです。何も無駄を承知で無駄をする必要はありません。しかし、実際には小出力のパワーアンプは市場に無いのも確かな事です。
そこにターゲットを絞った物が #5・#10・#20 です。では、何故小出力アンプは市場に無いのか?
当然 “小出力では高く売れない” からです。
しかし、無駄な物を高い値段で買って更に移動の時に腰を痛めるような事までするのか? 大変に疑問ですよね。
特にマルチチャンネルシステムとなると大変な事になります。更に、マルチチャンネルシステムの場合は各帯域にはほんの少しの出力で充分なのです。